正しい理解が広まらず、孤立している現状の解決へ向けて 『追体験 霧晴れる時』出版トーク(連載5)
取材・記事 土井ひろこ (ライター)
『追体験 霧晴れる時 〜今および未来を生きる精神障がいのある人の家族 15のモノガタリ』の出版を記念し、梅田蔦屋書店にてトークショーを開催。当日の模様をお伝えしてきた連載、5回目の今回が最終回。
会場にお越しのみなさんと共に、正しい理解が広まらず、孤立している現状の解決へ向けて、私たちは何ができるのかについて意見交換をしました。
『追体験 霧晴れる時』 〜今および未来を生きる 精神障がいのある人の家族 15のモノガタリ〜みんなねっとライブラリー1【紙・電子】青木聖久(著) 1,300円+税→生涯を通じて5人に1人がこころの病気にかかるともいわれる時代(厚労省みんなのメンタルヘルス)
そのとき家族は過去をどう乗り越え、「霧晴れる時」を迎えることができたのか。15家族の実話
精神疾患というのは日本の5大疾病で、ポピュラーで、誰もがなる可能性のある当たり前の病気にも関わらず、正しい理解がまだまだ広まらず、患者さんたちが孤立している現状があります。
―― 精神保健福祉士
増田:先生、今日はありがとうございました。ここからは、ご参加いただいた皆さんから、質問やご意見、ご感想などをいただけたらと思います。
青木:今日はいろんな立場の方が来られています。兵庫県精神保健福祉士協会の北岡祐子会長が来られているのでちょっと感想をいただけたらと思います。
北岡:青木さんには神戸時代からお世話になり、いつも刺激をいただいております。私は就労移行支援事業所で、当事者や家族の方の話を伺いながら就労支援の仕事をしています。
精神疾患というのは日本の5大疾病で、ポピュラーで、誰もがなる可能性のある当たり前の病気にも関わらず、正しい理解がまだまだ広まらず、患者さんたちが孤立している現状があります。
また精神医療の根深い課題もあり、そのようなひずみを患者さんやご家族の方が背負わされているという風に思うんですね。
就労支援の現場でも、体調の不安定さや離職率の高さを精神障がいの特性みたいに言われる方も多いんです。そうではなく、今までの支援者がきちんと支援していたのか、精神医療がきちっと効果的な治療を提供できていたのか、そのひずみを皆さんが受けているんじゃないか。自分で努力して、なんとかしなければと苦労を強いられているのじゃないかという風に感じています。
病気というのは誰もがなる可能性があります。でも、自分自身が体験してみないと分からない部分もありますので、この本に出会うことで視点の変更ができるのではないかと思います。
そして、この本を読んだ方が、精神の病に関わらず長く病気とつきあっていかなければいけないという立場の方が、「自分だけじゃなかったんだ」「こんな風に考えることができるんだ」というきっかけになればうれしく思います。
増田:ありがとうございます。
母:こういう場に一緒に来られることはとてもうれしいです
息子:来て良かった。こういう場に出てくることの大切さを再確認しているところです
―― 病気の息子さんと参加
青木:今日は息子さんと来てくださっている方がいらっしゃいます。
母:息子の病気をきっかけに34年勤めた学校を辞め、国家試験を受けるため福祉の勉強に励みました。家族を支えてこその病気の回復だと思っていますので、一緒に回復していけたらいいなと思っています。息子は今年に入って一緒に行動してくれるようになりました。こういう場に一緒に来られることはとてもうれしいです。
青木:ありがとうございます。息子さん、よろしければ…。
息子:統合失調症の当事者です。昨日久しぶりに体調を崩したのですが、今日は来ることができました。コントロールが難しいのですが、なんだかんだ言って来て良かったな、と。こういう場に出てくることの大切さを再確認しているところです。
青木:いやぁ、ありがとうございます。
青木:それから、なんと、私が明石市で作業所をスタートした時に、利用してくださっていた利用者さんもいらしてくださっています。よろしければ一言お願いします。
利用者さん:私は「サポートセンター西明石」で青木先生がまだ青木所長だった時代に出会わせてもらい、社会保障の勉強をしたり、SST(social skills training 社会生活技能訓練)を受けたりしていました。今は法人の寮に入っています。これから一人暮らしをして一般就労に向けて頑張ろうとしています。私は青木先生に久しぶりに会えてうれしい、それだけなんです。うまくまとめることはできないんですけど、ここの場に来られて本当に良かったです。
青木:よく来ていただけましたね。いろんなことがありながらも…(涙)。今日のイベントを見つけて来ていただいて、うれしいですね。一個人として人と人とがつながれる、そんなような人間でありたいと思っているなか、今日来ていただいたことは私にとって非常にうれしいことです。そんな活動を今後も続けていきたいと思います。
増田:すばらしいことです。ありがとうございました。
地域で悩んでおられる方、生きづらさを抱えておられる方はたくさんいらっしゃる。私たちはもっとハードルを下げ、地域の家族会の人たちと一緒にアナウンスをし続けるということが非常に大事
———— 保健所職員
青木:私の弟のような、現場ソーシャルワーカーが和歌山から来てくれました。
松岡:和歌山市保健所の松岡信一郎です。私もお兄さんのように慕ってやって参りました。
保健所という行政機関は地域の方が1番目に相談に来られるところです。ご家族やご本人さん、地域の関係者や住民の方からの相談を受け止めさせていただいています。
いろんな事件が起こると「非常に心配しているんや。保健所でなんとかならへんかな」という住民の方からの相談も寄せられるんですね。皆さんの声や情報を聞き、真摯(しんし)に対応することを心がけています。
同時に、ご家族やご本人さんからは「私らも同じように思われているかもしれない。それが不安で寝られないんだ。」という相談もあり、事件を伝える報道には、つらいなと感じることはよくあります。
先日、地域の勉強会にお呼びいただき、「精神障がいの方に対する理解」というテーマでお話をする機会がありました。
その時には質疑応答は無かったのですが、後日その講義を聴いた方からの電話が数件ありました。
「実は息子に幻聴があって。でも、同じような人がそんなに多いと知りませんでした。保健所で相談できるということも知りませんでした」「私の夫がうつ病で通院しているんだけど、どう声をかけたらいいか分からないんです。」など。
そういった啓発や保健所での相談業務については、皆さんすでにご存じだろうなと思いながら普及活動をしていますが、そうじゃないんだ、と。地域で悩んでおられる方、生きづらさを抱えておられる方はたくさんいらっしゃる。私たちはもっとハードルを下げ、地域の家族会の人たちと一緒にアナウンスをし続けるということが非常に大事だなと感じました。
青木:確かにそうですね。
増田:本日はありがとうございました。ここに集まっていらっしゃるお一人お一人が、まさにこの世の中を変えていく、静かなる変革者なんだろうなと思いながら伺っておりました。
1年後2年後の世の中がさらにいいものになりますように、今日のトークショーがそのスタートになれたら幸いです。皆さま本当にありがとうございました。(了)
『追体験 霧晴れる時』 〜今および未来を生きる 精神障がいのある人の家族 15のモノガタリ〜みんなねっとライブラリー1【紙・電子】青木聖久(著) 1,300円+税→生涯を通じて5人に1人がこころの病気にかかるともいわれる時代(厚労省みんなのメンタルヘルス)。
そのとき家族は過去をどう乗り越え、「霧晴れる時」を迎えることができたのか。15家族の実話
生きづらさに寄り添う『みんなねっとライブラリー』シリーズ
ペンコムでは『みんなねっとライブラリー』を創刊しました。
「みんなねっとライブラリー」は、公益社団法人全精神保健福祉会連合会(みんなねっと)監修のもと、生きづらさを抱える本人と家族が安心して暮らせる社会をめざす一般向け書籍シリーズです。
家族、当事者、医療、福祉、介護など、多方面の著者が執筆し、わかりやすく、広く一般の方に「こころの病」について理解を深めてもらおうという内容です。
シリーズの装丁は、ブックデザイナーの矢萩多聞氏が手掛けます。