追体験 霧晴れる時出版トーク2-1

精神疾患は「誰にも起こりうること」…体験を語る 『追体験 霧晴れる時』出版トーク(連載2)

  • 2019年12月20日
  • NEWS
追体験 霧晴れる時出版トーク2-1

取材・記事 土井ひろこ (ライター)

『追体験 霧晴れる時 〜今および未来を生きる精神障がいのある人の家族 15のモノガタリ』の出版を記念し、梅田蔦屋書店にてトークショーを開催。その内容をお伝えする連載2回目は、精神疾患は「誰にも起こりうること」。本にも登場の家族、本人が語る体験を交えながら、この疾患をどう捉えるのかを考えていきました。

なお、文中で紹介の当事者家族・本人のお名前は、書籍掲載と同様に仮名とさせていただいています。

追体験 霧晴れる時『追体験 霧晴れる時』 〜今および未来を生きる 精神障がいのある人の家族 15のモノガタリ〜みんなねっとライブラリー1【紙・電子】青木聖久(著) 1,300円+税→4人に1人が精神疾患の時代。そのとき家族は過去をどう乗り越え、「霧晴れる時」を迎えることができたのか。15家族の実話

当事者・家族の方に実体験から、その思いを聞く

増田:本日のメインテーマである「生きづらさ」や「当事者として」というお話も、ここから深めていきたいと思います。

青木:「当事者」という言葉ですが、広い意味で言うと精神障がいがあるご本人もご家族も当事者ということになります。今日はご家族も含めた当事者の方からも、お話を伺いたいと思います。

会場に、『追体験 霧晴れる時』の第3話で紹介している、元キャビンアテンダントの虹丘 空さんがお見えです。早速ですが、虹丘さん、お話を聞かせていただけますでしょうか。

追体験 霧晴れる時出版トーク2-2

●虹丘 空さん(第3話)/
「この病気、風邪と一緒。たまたま病気になってしまったけど、でも普通のことだよということを分かってほしい」

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虹丘:こんにちは。第3話で紹介いただいた虹丘です。7歳年下の弟がいまして、彼が発症したのは20歳ぐらいの時でした。実家を離れ、大学で一人暮らしをすることになり、その直後に生活環境ががらっと変わったことで統合失調症になりました。これまでいろんな波がいっぱいありましたが、発症から25、6年がたち、やっと「激しい時期」は過ぎ、今は落ち着いています。とはいえ、まだなかなか働けていません。

家族にとっては、初めての経験ということもあり、弟が発症した時は、「家族全員が出口の見えないトンネルに入っていく心境」でしたが、その後、家族会やきょうだい会に参加することで、そこでの出会いを通して、「私と弟のような人ってたくさんいるんだな」ということを知りました。

青木先生がお書きになった『追体験 霧晴れる時』には、いろいろな体験をした15家族の事例が載っています。

当事者、家族、支援者、それぞれの立場の方に、「そういう人もいるのか」「精神障がいになっても、元気に生きていくことができるんだ」など、いろいろなことを感じてもらい、いつかプラスに働き、やがて何らかのアクションを起こすようなきっかけになったらうれしいなと思っています。

この病気、風邪と一緒なんです。たまたま病気になってしまったけど、でも普通のことだよということを分かってほしいですね。

精神疾患は「誰にも起こりうること」

増田:ありがとうございます。普通のこと、なんですね。

青木:環境が変わってある日突然、ご病気になられる。多くの方が、自分には関係の無い病気だと思っていますが、実は、誰にでも起こりうる風邪のようなもの。

増田:私たちは、遠い世界の話だと思っていますが、そうではなくて、家族の中に誰でも、自分自身も含めて精神を病むことはあるんだという話ですね。

青木:はい、「誰にも起こりうること」これは、知っていただきたいキーワードです。

それと今回のように、当事者の家族の方が、一般の大勢の皆さんの前で、ご自身の経験をご発言いただけたのも、大きなことだなと思っています。

増田:そうですね。「家族全員が出口の見えないトンネルに入っていく心境」だったが、家族会やきょうだい会での出会いで気持ちが楽になった。今、同じような立場にいる人たちは、この本を通して、「自分のような人ってたくさんいるんだな」と知って、気持ちをプラスに変えてほしい、という実体験からの思いを家族の方から伺うことができたのは、とっても意義深いですね。

虹丘さん、ありがとうございました。

●天井萌奈賀さん:母(第10話)
本人、家族ともこの病気を持っていると世間に言えない、というか言わない。みんな本当に孤独。珍しくない病気なので、もっと理解が進んでほしい

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青木:本で紹介させていただいている仮名の中で、特に印象深い方がいらっしゃいます。10話の天井萌奈賀(あまいもなか)さん、大阪の方です。今回、本の中では、皆さん仮名でご紹介しているのですが、どんな仮名にさせていただきましょうかって伺ったら、「甘い最中が大好き」っておっしゃるんですよ。それで、天井萌奈賀さん(笑)。

増田:会場に、天井さんもお見えなんですね。天井さんにはまずお伺いしなきゃいけないことがありました。

「写真を撮ってもいいですか?」

青木:(笑)本の冒頭で紹介したエピソードですね。

増田:はい。

青木:以前、家族会の研修会の時に「写真を撮っていいですか?」と天井さんに聞きましたら、ちゅうちょされたことがあったんです。それで、顔が写ることを気にされているのかなと思ったら、次の瞬間、「スマートに撮ってくれたらいいんですけど。」って(笑)

では、天井さん、よろしくお願い致します。

天井:はい。天井萌奈賀です。この通り体も大きいので、今日もスマートに撮っていただけたらと思います。今日は息子と一緒に参加させていただきました。

息子が病気になったが故にというか、なったことが幸いというか、いろんな方に支援していただき、助けていただき、優しさに触れ、学びも多くありました。感謝しています。

今は大阪の家族会で月に3回ぐらい電話相談をさせてもらっています。当事者からの電話がすごく多くて、みんな本当に孤独なんだなということを感じます。

本人、家族ともこの病気を持っていると世間に言えない、というか言わない。

とはいえ、珍しくない病気なので、もっと理解が進み、みんなが住みやすい世の中になっていったらいいなと思います。

青木:息子さん、本の中では隼人さん、精神の障がいを持ちながら仕事をされて、もう10年以上続いています。そのお給料でご両親にプレゼントを渡されています。良ければ一言お願いできますでしょうか。

●本人:天井隼人さん/自分の運命は呪われているんじゃないかと恨んだことも。
今は仕事に就いて11年目。病気になったことは悪いことばかりじゃないと思えるように

隼人:皆さんこんにちは。阪神・淡路大震災があった時に大学を卒業して、警察学校に入学しました。環境が変わり、生活に耐えきれず、病気を発症してしまったんです。それで、病気になったことを恨んだり、自分の運命は呪われているんじゃないかと思ったり。

でも今は、NPO法人でヘルパーさんの給料計算をする仕事になんとか就くことができています。働き始めて11年目になりますが、その間に2回入院しました。

今、一番感じているのは、病気になったことは悪いことばかりじゃないということです。おかげで知り合えた人がいたり、人から受ける優しさを感じたり。発症しなかったとしても、しんどいことは何かあったと思いますし。

なかなか経験できない人生を体験させてもらい、今は病気になったことも元気に変えられているなと思います。就職するために訓練していた事業所からの依頼で、人前で話をさせてもらう機会もあり、遠方まで赴くこともあります。

青木:ありがとうございます。自分の人生の中で、子どもやきょうだい、みんなが笑顔でいてくれるということはうれしいことですよね。息子さんが今日ここでお話しされている天井さん、それは、ご自身にとってもすてきなことなんだろうなと思いながら聞かせていただきました。本当にありがとうございました。

●太田真由さん(第5話)/
家族は本当に重い課題を抱えています。でも、多くの出会いと体験を経て、長い年月がかかっても変われる、ということを実感しています

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青木:もう一人いらっしゃるんです。第5話の大田 真由さん。紫の髪色がおしゃれで、山登りなど趣味も多彩。ご自身の人生も満喫されている大田さんが来られているので、ぜひ一言お願いします。

大田:大田です。こんにちは。青木先生が以前、「誰もが自らの人生の主人公」と書いてくださった言葉がずっと頭の中に残っています。本当に苦しい思いもしてきたのですが、体験を書いたり、家族会でたくさんの人と出会ったり、相談活動をする中で、私自身が学び、変わることができました。

知っているようで知らなかった娘の一面に気付けるようになり、何かしてやらねば、という「縦の関係」から、「向き合って対話できる関係」に変わってきました。

家族は本当に重い課題を抱えています。でも、多くの出会いと体験を経て、長い年月がかかっても変われる、ということを実感しています。

青木:大田さんは、家族による家族のための相談活動なども精力的にされているんです。

増田:すごく力強さを感じますね。

青木:そうですね。本当に力強くて優しくって。私も家族会の仲間として、全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)全国大会の実行委員もしているんです。1500人ぐらい集まる大会なんですが、一緒に何かを成し遂げ、達成感を共有できることがうれしいです。今回のように、家族会の方からお話しいただくと、私自身が原点に戻れます。

大田さん、本当にありがとうございました。

読者の方からの感想からー家族に視点を当てた本書は貴重な存在で感謝しています

追体験 霧晴れる時出版トーク2-3

増田:読者の方からも、たくさんのご感想をいただいています。

家族が精神障がいとなり、現在、考えることも多く、新聞の紹介コーナーで紹介内容に興味を持ち書店で購入されたとおっしゃる59歳、女性の方。

「霧 晴れる時」は本当に来るのだろうかと現在の状況を思いやるのだけれど…

本人にとっても、家族にとっても、つらい未来ばかりではない。今を生きて……気付いた時に霧が晴れているかもしれないと思えた。やさしい1冊となった。

こちらは90歳の女性の方。

私にも、精神障がいの弟(故)がおり、姉妹で最后までみとりました。家族会にも参加しておりました。

家族の視点を添えての図書は珍しくすばらしいと思います。感謝しています。(原文ママ)

72歳、男性の方。

私の妻は54歳で急に職場のうつを発病。以後6年間、薬の効果も全く無く苦闘してきました。それが今年に入り霧が晴れるように回復し始めたので本書を読ませていただきました。

家族に視点を当てた本書は貴重な存在で感謝しています。

ただ、家族会が中心で、私のように家内の事情から家族会に参加せず、孤独な戦いをしている人も多いと思いますので、そのような方々の追体験も読みたかったと思っています。

ご購入の動機は、「自分の人生と題名に共通性を感じ、今後のヒントを得るため」で、ネット書店でご購入いただいています。

当事者ご本人の方からもいただいています。61歳、女性の方。新聞で知って内容に興味を持ち、書店で購入されています。

「私自身が精神障がい者なので、身につまされる話が多くためになった。いろいろなことを知れて良かった。」

青木:ご感想をお寄せいただき、ありがたいことですね。

つらい霧の中にいる本人、家族の方の助けになる本になりたい

追体験 霧晴れる時出版トーク2-4

増田:こうして、感想を寄せていただく方の多くは、まだつらい中にいらっしゃるんですね。世間や自身の偏見も、時にきついものがある。皆さんは、そうした偏見とも戦っていかなければならない。

青木:そうですね。その辺りもこの本にかける思いがありましてね。病気のことを、あまり知らないうえに、元々自分が持っている先入観との戦いがある。

増田:この本は、そのようなつらい霧の中にいる本人、家族の方の助けになりたい、そういう本にならなければいけないという青木先生の思いを実現しなければ、と編集させていただきました。

青木:そうですね。突然そういう状況になって、「明日からどうしよう」って悩んだ時に、具体的に動くことができる項目を載せましょうということで、みんなねっとの電話相談の番号や、全国の窓口を記載した「つながる」という項目も入れ、具体的に動く方法についても記しました。

さらに、一般の方にも知っていただきたいということで、専門用語は極力使わない、難しい用語には解説も付けました。

増田:先生には、締切間際のギリギリまで、修正や原稿の追加をお願いしてご迷惑をおかけしたのですが、先生のレスポンスが本当に早くて的確で、大いに助けていただきました。おかげで、困っている方の力になれる1冊に仕上がったと思っています。

追体験 霧晴れる時『追体験 霧晴れる時』 〜今および未来を生きる 精神障がいのある人の家族 15のモノガタリ〜みんなねっとライブラリー1【紙・電子】青木聖久(著) 1,300円+税→4人に1人が精神疾患の時代。そのとき家族は過去をどう乗り越え、「霧晴れる時」を迎えることができたのか。15家族の実話

静かなる変革者たち『静かなる変革者たち』精神障がいのある親に育てられ、成長して支援職に就いた子どもたちの語り〜みんなねっとライブラリー2
横山恵子、蔭山正子、こどもぴあ(著)
¥1,400 (税別)

生きづらさに寄り添う『みんなねっとライブラリー』シリーズ

ペンコムでは『みんなねっとライブラリー』を創刊しました。
「みんなねっとライブラリー」は、公益社団法人全精神保健福祉会連合会(みんなねっと)監修のもと、生きづらさを抱える本人と家族が安心して暮らせる社会をめざす一般向け書籍シリーズです。

家族、当事者、医療、福祉、介護など、多方面の著者が執筆し、わかりやすく、広く一般の方に「こころの病」について理解を深めてもらおうという内容です。

シリーズの装丁は、ブックデザイナーの矢萩多聞氏が手掛けます。

Doticon_red_Right『みんなねっとライブラリーシリーズ』創刊

みんなねっとライブラリー