連載8:心病む夫と生きていく方法

第1章 語り合う 妻たちのホンネ(6)ー2人の未来。どう生きていくのか(前)

  • 2021.02.15
あなたはひとりじゃない。
ある日、明るく優しい夫が心の病を患った。不安で押しつぶされそうになる妻。妻がどのような困難にぶつかり、どう乗り越えてきたのか、一緒に考えていきます。
自粛生活が続き、多くの人が不安な日々を過ごすなか、2020年11月2日に発刊された蔭山正子氏の書籍心病む夫と生きていく方法 統合失調症、双極性障害、うつ病… 9人の妻が語りつくした結婚、子育て、仕事、つらさ、そして未来(出版:ペンコム)を連載します。
「あなたはひとりじゃない」。このメッセージが届きますよう。
心病む夫と生きていく方法

2人の未来。どう生きていくのか(前)

病気の夫の妻として、「ともに生きていく」というのはどういうことだと思っていらっしゃるのでしょうか。
同時に、これから、皆さんはどのように生きていきたいか、そういうところを最後にお話しください。

■私が変わろう! すると夫が変わった

これからのことですよね。
初めのうちは、夫をなんとか治してあげたいとか、薬をできるだけ減らしたいとか思って、がんばってみたんですけれども、まぁうまくいかず。
その後に出てきた答えが、「この夫を受け入れるのに、私が変わらないといけないんだ」っていうことです。
それで自分のために始めたことがあります。瞑想と5分程度のエクササイズです。それを毎日やって、気持ちや体をリセットしています。
そして、夫のことをあれこれと言わないようにしました。
夫は夫の人生ですから。
一緒にいて、気になるけれども「もういいや」と。
まるごと子どもを受け止めるのと一緒で、「まぁいいや。休んでもいいよ、文句を言ってもいいよ。頭を抱え込んでなんかすごく暗い状態になった夫でもいいや」と、何も言わないって心の中で決めたんです。
それで1カ月ぐらいがんばって。
そうしたら、夫のようすも変わったんです。

●「私が変わる」ということ
家族が変わることで当事者にもよい影響があると思われる。しかし、人が変わることは簡単なことではない。病気を治すのは本来当事者の課題。家族は見守ったり、応援する気持ちだけでも十分だろう。

●夫は夫の人生。何も言わないって心の中で決めたら…
「夫の病気を受け入れよう」と気づき、夫のことをあれこれと言わないようにした。「休んでもいいよ、文句言ってもいいよ。頭を抱え込んでなんかすごく暗い状態になった夫でもいいや」と。1ヵ月ぐらいがんばったら、夫のようすも変わってきた。

■どんよりとした夫に引っ張られないように自分をリセット

夫は今、復職しているんですけれども、そういう病気があるっていうことで、会社でいろいろ言われることが多くなったんですね。
最近では、「僕はその仕事ができないんで」って断れるようになったらしく、定時で帰ってくることもあるんです。けれども同僚からは、「なんであいつ、やんないんだ」みたいな、そういう目で見られてしまっているのを感じるらしく、夫がどんよりとしているんですね。そうすると、こっちまでどんよりしてしまう。
そのときに、自分をリセットする意味で、瞑想とか、ちょこっとヨガで体を動かすだけで、自分に集中して、リフレッシュというか、息抜きができる。
最近では、夫とのコミュニケーションも、ほどほどにですけれども、取れるようになりました。

●心と体をリセット
夫がどんよりとしていると、自分までどんよりしてしまう。そのときには瞑想や簡単なヨガで体を動かすだけで、自分に集中して、リフレッシュ、息抜きができた。

■私が変われたのは、夫のおかげかな

夫のうつがきっかけで、つらそうな夫を見ていると、人間らしい生き方っていうのはもっとこうだよというような、私も自分らしく生きようって考えて、そこから私も変われたんです。私が変われたのは、夫のおかげだなあって。
今は、そういう状況で、息子もいて、家のローンとかもあって大変なんですけれども、「お金は2人で返していこう。それであなたを早く、自由にさせてあげたい」ということを夫に言いました。

●「自分らしい人生を生きる」その大切さを夫が教えてくれた
夫のうつがきっかけで、つらそうな夫を見ていると、人間らしい生き方っていうのはもっとこうだよというような、私も自分らしく生きようって考えて、そこから私も変われた。「自分らしい人生を生きる」その大切さを夫が教えてくれた。

■ここから先のことを見据えていきたい

皆さんのお話を伺っていて、私は自分の理想を夫に押しつけていたところもあったのかなと、今、思っています。父親だから母親だからという、あるべき姿みたいな、もともと私が理想として描いていた結婚生活とかけ離れてしまっていて不安だったんです。これからは、ここから先のことを見据えていきたいなと思いました。
普段、夫の前では、話す内容もコントロールしているんですが、こういう場で自分を解放して、好きなことを言って、自分を表現するのも必要なのかなと思いました。

■夫の収入に頼らなくてもやっていける見通しを立てる

今は、家庭内別居に近いんですね。今後は、自分の生活をちゃんとして、仕事もずっと続けて、そうすれば夫の収入が無くても子ども1人ぐらいだったら育てていけるし、夫の気持ちがアップダウンしても、私がちゃんと中心になるものになっていこうと思って。
職場も、私の定年までの見通しはようやく立てることができたので、子どもが大学を卒業する位まで、働いてもいいかなって思っています。今は、仕事が私にとってはストレス発散の場所になっています。家の中だけにいるよりも、職場と自宅っていう2カ所に居場所があるので、発散できています。
でもたぶん、夫は変わらない。変わらないような気がします。

●これから先の人生を見据えて、夫の収入に頼らなくても生活できる見通しを立てる
夫の気分のアップダウンとは関係なく、将来を見据え、自分と子どもの生活を中心に考え、夫の収入が無くても子どもが大学卒業するくらいまで働く見通しを立てた。

蔭山正子

大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻公衆衛生看護学教室/准教授/保健師。
大阪大学医療技術短期大学部看護学科、大阪府立公衆衛生専門学校を卒業。病院看護師を経験した後、東京大学医学部健康科学・看護学科3年次編入学。同大学大学院地域看護学分野で修士課程と博士課程を修了。
保健所精神保健担当(児童相談所兼務あり)・保健センターで保健師としての勤務、東京大学大学院地域看護学分野助教などを経て現職。
主な研究テーマは、精神障がい者の家族支援・育児支援、保健師の支援技術
静かなる変革者たち」「心病む夫と生きていく方法」(共にペンコム)