連載7:心病む夫と生きていく方法

第1章 語り合う 妻たちのホンネ(5)ーつらかったとき、誰に相談しましたか どう乗り越えましたか(後)

  • 2021.02.11
あなたはひとりじゃない。
ある日、明るく優しい夫が心の病を患った。不安で押しつぶされそうになる妻。妻がどのような困難にぶつかり、どう乗り越えてきたのか、一緒に考えていきます。
自粛生活が続き、多くの人が不安な日々を過ごすなか、2020年11月2日に発刊された蔭山正子氏の書籍心病む夫と生きていく方法 統合失調症、双極性障害、うつ病… 9人の妻が語りつくした結婚、子育て、仕事、つらさ、そして未来(出版:ペンコム)を連載します。
「あなたはひとりじゃない」。このメッセージが届きますよう。
心病む夫と生きていく方法

つらかったとき、誰に相談しましたか どう乗り越えましたか(後)

前回に引き続き伺っていきます。
相談などで助けてもらったということはありますか。また、その逆も。具体的に教えてください。

■「夫と一緒に生きていく」ことの悩みを共有してはもらえない

例えば、母とかに相談すると、泣かれる。
父に相談すると「離婚すればいい」と言われる。
妹に相談しても「第2の人生があるよ」って言われる。
もちろん、家族はすごく親身に思ってくれているんですが、「夫と一緒に生きていく」ということに対しての悩みを共有してはもらえない。
以前、「精神障がいのある人の家族会」に行ったんですけれども、参加されているのが、当事者のお父さんお母さんばっかりで、子どもが障がいでという悩みが中心で、「夫と一緒に生きていく」という悩みではなかった。なので、そこでも悩みを十分には解消できませんでした。
相談場所がなかなか見つからなかったというのが、本当に厳しかったです。

●家族をケアラーとして見るよりも先に、支援を必要としている人として
統合失調症を患う長期入院中の患者の家族に行った調査では、57.9%の方がPTSD(心的外傷後ストレス障害)のハイリスクだったと報告されている。日本人のPTSD生涯罹患率が1.3%であることと比べると、とても多い。家族のことをケアラーとして見るよりも先に、支援を必要としている人として見て、支援する必要がある。→本文P186

■配偶者の会は踏み込んだ相談ができる場所

この配偶者の会だと、全員じゃないけれども、夫が警察にお世話になっている人もいるし、うちみたいに長期入院した人もいるし、お金の話とかもできる。親にも友だちにも、そこまで踏み込んだ話というのはできないです。
配偶者の会だと、みんなベースが一緒というか、個人的にどこに住んでいるとか、名前も知らないから、すごく言いやすいです。
「言える」っていうのがすごく大きいです。

●家族会
家族自身によって運営されるセルフヘルプグループ。精神障がいのある人の家族会は、全国には、約1,150あり、約3万人の会員がいるとされている。近年、親を中心とした家族会に加えて、兄弟姉妹の会、配偶者の会、精神障がいの親をもつ子どもの会等、形態の広がりを見せている。

■友人、行政の窓口…相談することは助けになった

私と同じように、夫がうつになって、相談できる友人が2人いて、「あなたがしっかりしていれば大丈夫」っていつも声をかけてくれるので、それもすごく助けになっています。
あと、行政の法律相談や、児童支援の相談も受けました。
夫が子どもに手を上げるということもあったので、そういうことを相談しようと思って児童支援の相談に行きました。
でも、私がそのとき1番心に詰まっていたのは、夫との関係だったんです。掘り下げてそのことを相談できるところというのは結局は無かったです。
それでも、行政の相談は継続的に利用しています。ここでは、もし夫と離婚というようなことになっても、子どもとの同じ生活をずっと続けることができるということが分かって安心しました。
この配偶者の会を探し出すことができて、皆さんの前で話す場を設けてもらって、困ったことを言える。すごく感謝しています。本当に遠回りをした感じです。
そして、今は、夫の体調にアップダウンはあるけれども、悪いときが過ぎれば、またよくなるっていうペースを少しつかめてきたかなと思っています。

●配偶者自身の相談に乗る
精神疾患を患う夫の話は、医療従事者が聞いてくれるが、妻自身の悩みを聞いてくれる相談機関は残念ながら少ない。配偶者自身の相談に乗る窓口やカウンセリングなどの充実が求められる。

●行政の相談窓口や配偶者会で安心できた
えりさんは、結婚、子育て、夫の発症と、分からないことがあるたび、行政の相談窓口を継続して利用。また、配偶者会を「探し出す」ことができ、困ったことを話せるようになった。

■自分の思いを言うだけで、気持ちがぐっと落ち着く

私の場合は、夫の母と、私の弟がすごく理解があって、いつも「大丈夫?」とか、「いつも言ってね」って言ってくれるので助かっています。
LINEでやりとりをしたり、休みのときに、主人と夫の実家に行って話をするだけでもすごく気持ちが楽になって。
この配偶者の会を発見して参加するようになったんですけれども、この会の存在が私の中では大きい。これまで、自分1人だけの悩みだと思っていましたが、ここに来て皆さん同じようなことを、全く一緒のことを思っているんだということを再確認できました。
単純に自分の思いを言うだけで、気持ちがぐっと落ち着くんです。
私たちと同じように、つらい思いを抱えている配偶者の方が、まだまだたくさんいると思うので、この会の存在を多くの人に知ってほしいなと思います。

●妻を救ってくれた転機となった出会い
夫が精神疾患を発症して、将来の不安が募るなか、妻を救ってくれた転機となった出会いには、親族に加えて、主治医、カウンセリング、配偶者会などが挙げられる。

■自分がオープンに話すことで、初めて「身近な病気」だと知った

私の場合も、どちらの実家も理解をしてくれているので、そこは本当にありがたい。両親に話をしたり、子どもを連れて自分の実家に帰ってゆっくりしたりというのが、私にとってよい時間だなと思っています。
そして、1番好きなのはこの会です。この会があるということで本当に救われました。直接、同じつらさを抱えている人たちとお会いして、お話ができたときは本当にうれしかったですし、ほかにも同じように感じている人がいて、「あー、自分だけじゃないんだ」と思うだけでも、気持ちが救われました。
この病気、知り合いなどに話してみると、「実は自分の親が」とか、「自分の夫が」とか、「友だちの夫が」とか、意外と同じような病気の人が、身近に結構いるということも分かりました。オープンにして話すのはすごく勇気がいることだったんですけれども、話してみると、「心の病って、誰にでもあるんだ」「とても身近な病気なんだ」ということも知りました。

●「自分だけじゃないんだ」と思うだけでも気持ちが救われた
配偶者会があるということで救われた。直接、同じつらさを抱えている人たちと会って話ができたときはうれしかったし、オープンにして話すのはすごく勇気がいることだったが、話してみると、「心の病って、誰にでもあるんだ」「とても身近な病気なんだ」ということも知った。「自分だけじゃないんだ」と思うだけでも気持ちが救われた。

理解してもらえる人がいて、かつ相談に乗ってくれて整理してくれて、専門家もいて。
なかなか理解してもらいにくいということも理解してもらって、知ってもらえるといいですね。

蔭山正子

大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻公衆衛生看護学教室/准教授/保健師。
大阪大学医療技術短期大学部看護学科、大阪府立公衆衛生専門学校を卒業。病院看護師を経験した後、東京大学医学部健康科学・看護学科3年次編入学。同大学大学院地域看護学分野で修士課程と博士課程を修了。
保健所精神保健担当(児童相談所兼務あり)・保健センターで保健師としての勤務、東京大学大学院地域看護学分野助教などを経て現職。
主な研究テーマは、精神障がい者の家族支援・育児支援、保健師の支援技術
静かなる変革者たち」「心病む夫と生きていく方法」(共にペンコム)