連載6:心病む夫と生きていく方法

第1章 語り合う 妻たちのホンネ(4)ーつらかったとき、誰に相談しましたか どう乗り越えましたか(前)

  • 2021.02.08
あなたはひとりじゃない。
ある日、明るく優しい夫が心の病を患った。不安で押しつぶされそうになる妻。妻がどのような困難にぶつかり、どう乗り越えてきたのか、一緒に考えていきます。
自粛生活が続き、多くの人が不安な日々を過ごすなか、2020年11月2日に発刊された蔭山正子氏の書籍心病む夫と生きていく方法 統合失調症、双極性障害、うつ病… 9人の妻が語りつくした結婚、子育て、仕事、つらさ、そして未来(出版:ペンコム)を連載します。
「あなたはひとりじゃない」。このメッセージが届きますよう。
心病む夫と生きていく方法

1番つらかったことは

人に話せるとだいぶ楽になるというか、配偶者の会につながることによって、自分1人だけじゃないと思えるという発言もありました。
病名によっても話しにくいとか、周囲も、理解してくれるところもあれば、なかなか理解してもらえないところもあるという発言もありました。
相談などで助けてもらったということはありますか。また、その逆も。具体的に教えてください。

■親には理解してもらえず、行政の相談先を探して転々と

親きょうだい、特に、夫の両親は、病気を無かったことにしたいというか、ちょっとは認めてくれてますけれども、初めにうつになったときは、「上司の何々さんがいけなかったのよ、あの人に会わなかったらなっていなかったのに」というようなことを言われて。
私の両親も、うつで病院に行っているということは、うすうす知っていたので、「だからそんな人と結婚しなきゃよかったじゃない」って。
そういう状況だったので、親族以外で相談できるところを懸命に探しました。
私の経験では、身近な人ほど本当のことが話せないなと思っています。

●親族に助けられた人、傷つけられた人
実の両親でも、桜野さんは、「だからそんな人と結婚しなきゃよかったじゃない」と言われ、その後、親に相談できなくなった。「身近な人にほど本当のことが言えないなと思っている」と話す。当たり前だが、義父母は実の息子のことを保護するため、妻との関係が難しくなることが少なくない。

■配偶者の会に出会ったときは、本当にうれしかった

それで、当時、上の子が幼稚園に入って4歳と1歳だったので、地域の保健師さんに乳幼児検診のときなどに、「何か困ったことはありませんか」と聞かれて、夫がうつ病でって言うわけです。
そうやって、子どもを通じて相談窓口に紹介してもらいました。
ところが、本人ではなく配偶者だからということで、当時は市役所の窓口に行っても話を聞いてもらえず、保健所でも精神、心の相談をやっていますとか、そういうことは書いてあるんですけれども、予約を取っても1カ月後だったり、行ってみたら、「本当はね、病院の先生に聞くのが1番いいんだけれどもね」ってため息をつかれたりして。
「子どもを連れてきてほしくない。自分だけで来るか、本人も連れてきてほしい」みたいなことを言われたこともありました。
ですから、配偶者の会に出会ったときは、本当にうれしかった。
最近は、家族のまるごと支援ということも言われていますので、そういう機能も進んでほしい。
何かあったら、まず相談できて、そこから先、必要な機関につなげてもらうとか、そういうところができてほしい。
それが今、1番の願いかなと思っています。

●夫の病気のことを話す、聴く、情報を知る。命が救われたー配偶者会
配偶者会に参加して「同じ悩みを抱えているのは自分だけじゃなかった」と思い気持ちが安定していく。「自分だけじゃなかった」という感覚は、孤独から解放してくれ、大きな安心感をもたらし、人を癒やす治療的効果がある。

■誰にも相談しないで、窮地に陥っても踏ん張ってきたけれど

病気になって、初めは、何かあったときには夫の弟に助けてもらっていたんです。でもそのうちに、「なんでもこっちに言ってくるなよ」って言われて。それからはもう相談できないなぁっていうことになっています。
また、夫が興奮すると警察に頼らざるを得ないことがあるんですね。そうすると私の弟が、「一切このことをしゃべるな。うわさがうわさを広めるんだ。近所の人がどう思っているか不安になると思うけど、一切言うな。都会なんだから、そのうちに誰も何も言わなくなるから。どう思われていようが、知らん顔してろ」と。
確かに誰も何も言わないし、主人は私以上にご近所さんにあいさつとかもする人なので、落ち着いたら落ち着いたで、弟の言うとおりに普通になるんですね。
私は、窮地に陥っても、これまで誰にも相談しないで、家族だけで抱え込んで、踏ん張って、乗り越えながらやってきました。
それで30代40代とがんばってきたけれど、50歳過ぎてちょっと疲れてきちゃったのかなあって感じています。
友だちにも言えません。分かってもらうのに説明するのが大変だと思います。実の弟ですら大変なんですから。

●精神疾患への偏見
精神疾患は偏見が強くてなかなか人に相談することが難しい病気。だからこそ親族に理解してもらうことは妻の支えになり、とても重要なことだ。

蔭山正子

大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻公衆衛生看護学教室/准教授/保健師。
大阪大学医療技術短期大学部看護学科、大阪府立公衆衛生専門学校を卒業。病院看護師を経験した後、東京大学医学部健康科学・看護学科3年次編入学。同大学大学院地域看護学分野で修士課程と博士課程を修了。
保健所精神保健担当(児童相談所兼務あり)・保健センターで保健師としての勤務、東京大学大学院地域看護学分野助教などを経て現職。
主な研究テーマは、精神障がい者の家族支援・育児支援、保健師の支援技術
静かなる変革者たち」「心病む夫と生きていく方法」(共にペンコム)