連載5:心病む夫と生きていく方法

第1章 語り合う 妻たちのホンネ(3)ー1番つらかったことは

  • 2021.02.04
あなたはひとりじゃない。
ある日、明るく優しい夫が心の病を患った。不安で押しつぶされそうになる妻。妻がどのような困難にぶつかり、どう乗り越えてきたのか、一緒に考えていきます。
自粛生活が続き、多くの人が不安な日々を過ごすなか、2020年11月2日に発刊された蔭山正子氏の書籍心病む夫と生きていく方法 統合失調症、双極性障害、うつ病… 9人の妻が語りつくした結婚、子育て、仕事、つらさ、そして未来(出版:ペンコム)を連載します。
「あなたはひとりじゃない」。このメッセージが届きますよう。
女性自身に掲載

1番つらかったことは

夫が病気になって、不安なこと、つらいこともあったと思います。具体的にお話しいただけますか。

■将来への不安。この人とともに行く人生を選ぶことが、正しいのか

何がつらいかっていうのは将来への不安です。
双極性障害と言われても、初めはどんな病気なのかよく分からないというのがすごくつらかったというのと、退職転職を繰り返していたので、家計的にもすごく不安定で。
結婚したときは共働きでしたが、夫の収入が安定していたので、専業主婦になっていたんです。夫が退職したら収入がゼロになってしまったので、また私が仕事を始めました。
でも夫の調子が悪くなると、仕事をしながら夫をサポートしなければいけなくて、体がいくつあっても足りないんです。
夫は、妻である私ともうまくコミュニケーションが取れないし、会社でも問題を起こすので、会社の人に申し訳ないというのもあるし。
近所の人から、白い目とまではいかないんですが、「どう大丈夫?」と聞かれても、病名までは言えません。
なんとなく「あの家大丈夫なのかしら」というような目で見られるから、仕事に疲れて家に帰るときに、近所の人に会ったりすると一段と落ち込むというか、そういうことがあります。

●就労が安定しない
精神疾患は病状が不安定になりがちという疾患特性があるため、安定して仕事に復帰することが難しいこともある。リワーク「Re-Work(再び働く)」という復職プログラムもあるので、主治医に相談を。

●夫が病気になると経済的不安が大きい
男性が仕事、女性は家庭、というジェンダー役割のなか、妻は結婚後に専業主婦になった家庭が多く、夫が精神疾患を発症すると仕事を続けることが難しくなり経済的に不安になる。精神疾患を患う夫も苦しめ、一緒に暮らす妻にとってもつらい。仕事、家事、育児の分担を考えることも重要。

■こんなに大変なのに夫からは文句が

そういうときに夫の状況がすごく悪くなったりすると、どうして、フルに働いて夫の面倒を見て、こんな生活になるんだろうって。
しかも、夫からは感謝されることはない。それどころか、「自由にしてもらえない」と夫から文句を言われたりするんですね。
もう疲れ果てちゃって。
自分のやってることに、肯定感が持ちづらいときにつらいなと思いました。

■子どもをうむという人生にも心が引かれて

私たちは、子どもをうまないって決めていたのですが、うむことを諦めなければならない年齢のとき、35歳位から45歳位までの間、「子どもをうむという人生もあるんだな」と思うと、この人とともに行くという人生を選ぶことが、正しいのかどうかという気持ちが湧いてきたことがあります。
子どもをうんで、育てるという未知の世界に、ちょっと心が引かれたこともありました。

●育児支援
米国では女性の約1/3、男性の約1/5が過去1年に精神疾患を罹患しており、これらの女性の65%が母であり、52%が父親である。日本においても子育ては社会全体で担うのだから、精神疾患があっても育児ができるよう社会として支えていく必要がある。
1)Nicholson,J.,D,P.,Biebel,K.,et al.(2001)Critical Issues for Parents with Mental Illness and their Families.Center for Mental Health Services Research,Department of Psychiatry,University of Massachusetts Medical School.Retrieved from
https://escholarship.umassmed.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1142&context=psych_pp

■お金の問題、この先どう生きていったらいいのか

お金の問題は大きく、とても不安でした。
手当金だけで生活するのは苦しくて、貯金を切り崩しながらの生活が結構長く続いたので、ここから先、どうなっていくのかという不安が毎日付きまとっていました。
と同時に、夫と2人で、この先どう生きていったらいいのか分からないといった漠然とした不安が襲ってきて、そのときは2人でただ泣くしかできないこともありました。

●病状による「お金の対策」も重要
精神疾患を患うと、休職や離職になることも多く、病気の回復に見通しが立ちにくいという病気の特性もあり経済的不安は生じやすい。そのうえ、躁状態では、浪費も起きてしまうこともある。クレジットカードを持たさないようにしているケースもある。そのような対策があることを支援者が伝えることも必要。

【次回へ続く】

蔭山正子

大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻公衆衛生看護学教室/准教授/保健師。
大阪大学医療技術短期大学部看護学科、大阪府立公衆衛生専門学校を卒業。病院看護師を経験した後、東京大学医学部健康科学・看護学科3年次編入学。同大学大学院地域看護学分野で修士課程と博士課程を修了。
保健所精神保健担当(児童相談所兼務あり)・保健センターで保健師としての勤務、東京大学大学院地域看護学分野助教などを経て現職。
主な研究テーマは、精神障がい者の家族支援・育児支援、保健師の支援技術
静かなる変革者たち」「心病む夫と生きていく方法」(共にペンコム)