連載4:心病む夫と生きていく方法

第1章 語り合う 妻たちのホンネ(2)ー病気を受容する難しさについて

  • 2021.01.31
あなたはひとりじゃない。
ある日、明るく優しい夫が心の病を患った。不安で押しつぶされそうになる妻。妻がどのような困難にぶつかり、どう乗り越えてきたのか、一緒に考えていきます。
自粛生活が続き、多くの人が不安な日々を過ごすなか、2020年11月2日に発刊された蔭山正子氏の書籍心病む夫と生きていく方法 統合失調症、双極性障害、うつ病… 9人の妻が語りつくした結婚、子育て、仕事、つらさ、そして未来(出版:ペンコム)を連載します。
「あなたはひとりじゃない」。このメッセージが届きますよう。

病気を受容する難しさについて

本人が病気を認める、そういう「病識を持つ」というのと、妻としても夫が病気だということを受け入れるまでの難しさみたいなものもあったと思います。
そのあたりはいかがでしょうか。

■私が治してみせる! ヘトヘトになるまでがんばったけれど

病気になった初めのころ、夫の病気を受け入れられなくて、何度か「私が治してみせる」「薬なんか飲ませたくない」って、すごく思っていて。
とにかく、なんとかして、眠れない夫を夜寝かせるように、毎日足の裏をマッサージしてあげて寝かしつけるとか、本当にヘトヘトになるぐらいまでやっていたんです。
でも、結局、薬がよく効くんですね。
それからは、私も、家での夫のようすを伝えて、先生に薬を変えてもらったり、うまく薬を調整してもらったりすることで、私や子どもへの暴力もなくなりました。これは本当によかった。
薬を飲んでいると寝てくれるから、すごく楽だと思いました。
この病気を家族が理解して内服を継続することで、生活のスタイルは維持していけるかなぁって。今そこは感謝しています。
ところが夫は、先生から病名を言われたことで、被害的に考えやすくて。会社からは私も一緒に病院に行って、その結果を会社に報告するように言われて。
間に入って難しかった。私も疲れちゃいました。

●夫が病気を認め、妻が病気だと受け入れることの難しさ
本人が病気を認めることも難しいが、家族が病気を認めることも難しい。外見やデータで分からないし、否定したい気持ちもあり、病気の受容までに時間がかかる。

●信頼できる主治医との出会い
信頼できる相性のよい主治医と出会うことは重要。相性がよいと、主治医は本人とさまざまな話ができ、そこから状況を把握できて服薬も変わっていく。治療にとって重要な要素。

■病院の先生とお話をするのは、助けになった

夫はお医者さんに本当のことを絶対に言わない。だからお医者さんに事実が伝わらないんです。いい格好をするというか。
例えば、その日に薬が欲しいと思ったら、「2週間寝られませんでした」って言うんですね。
こっちは、「昨日寝てないだけじゃん」って思うんです。かと思えば、ずっと調子が悪いのに、先生に「どうですか」って聞かれたら、「今まで通りです」って言う。
減らしてもらいたいと思えば、「すごく調子いいので」と平気で言うんです。ですから、病院へは私も夫の付き添いで行くんです。
夫は「来るな」って言うので、先生から夫に勧めてもらいました。「一緒のほうがいいよ」って。
そう言われてから一緒に行けるようになりました。

●妻には主治医から説明してもらうことが重要
説明を受けるには妻が診察に同伴することが必要だが、夫が拒否することもある。桜野さんは、主治医から妻を連れてくるよう勧めてもらうことで同伴が可能になった。妻が家庭でのようすを伝えることで主治医は多角的な情報を得ることができ治療に生かすことができる。

蔭山正子

大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻公衆衛生看護学教室/准教授/保健師。
大阪大学医療技術短期大学部看護学科、大阪府立公衆衛生専門学校を卒業。病院看護師を経験した後、東京大学医学部健康科学・看護学科3年次編入学。同大学大学院地域看護学分野で修士課程と博士課程を修了。
保健所精神保健担当(児童相談所兼務あり)・保健センターで保健師としての勤務、東京大学大学院地域看護学分野助教などを経て現職。
主な研究テーマは、精神障がい者の家族支援・育児支援、保健師の支援技術
静かなる変革者たち」「心病む夫と生きていく方法」(共にペンコム)