連載3:心病む夫と生きていく方法

第1章 語り合う 妻たちのホンネ(1)ー「夫が病気」と分かったときのこと

  • 2021.01.28
あなたはひとりじゃない。
ある日、明るく優しい夫が心の病を患った。不安で押しつぶされそうになる妻。妻がどのような困難にぶつかり、どう乗り越えてきたのか、一緒に考えていきます。
自粛生活が続き、多くの人が不安な日々を過ごすなか、2020年11月2日に発刊された蔭山正子氏の書籍心病む夫と生きていく方法 統合失調症、双極性障害、うつ病… 9人の妻が語りつくした結婚、子育て、仕事、つらさ、そして未来(出版:ペンコム)を連載します。
「あなたはひとりじゃない」。このメッセージが届きますよう。
座談会02
座談会01

ある日突然、とっても元気だった夫が、心の病を患った。
突然の事態にとまどう妻。あなたならどうしますか。
配偶者ならではの困難や、その乗り越え方など、一般的に知られていないことが多い。
ここでは、いろんな困難があっても「夫とともに生きていく」選択をした7人の妻たちがホンネで語り合います。
困難の現実と、それをどのようにして乗り越えていくことができたのか。まさに今、実際に困難のなかにいて孤立している皆さんの助けになることを願うと同時に、困難さに対していろいろな支援が必要だということも社会に理解してもらいたいと考えています。
各発言の内容については、ポイントにまとめて紹介し、解説も加えています。
あわせて参考にしてください。

「夫が病気」と分かったときのこと

はじめに、夫が発症した病気について、分からなかった点、つらかった点、今のようすなどをお話しください。

■病名が定まるまで病院を転々と。不安ばかりのつらい日々

最初は「会社に行けない」っていう雰囲気があって、それから、半年ぐらいたって行けなくなりました。
産業医からは「適応障害じゃないか?  ちょっと休んだらよくなるよ」ということでしたが、よくならず退職しました。病院でうつだと言われましたが薬でもよくなりませんでした。
初めは、「うつですね」とか、「適応障害ですね」とか軽い調子で言われるんですが、家族としては「そんな簡単な問題じゃない!」と。
夫は暴言を吐くし、人が変わったようになってしまっているし。
しばらく病院を変えたり、カウンセリングを受けたりしましたがよくならず、結局入院しました。
入院先で1カ月にわたり細かく検査をして、この時点で初めて双極性障害、発達障害もあると診断されました。そこからようやく薬が定まりました。
診断名がついて薬が定まるまでが1番つらかったことです。

●まさか、夫が! 病気へのとまどい
精神疾患は生涯のうち4~5人に1人は罹患するありふれた病気であるにもかかわらず、多くの場合、自分の家族が精神疾患になるとは思っていない。ほとんどの場合、夫が発病するまで精神疾患への知識はなくとまどう。
〈参考〉こころのバリアフリー宣言(厚生労働省2004年)「生涯を通じて5人に1人は精神疾患にかかるといわれています。」

■とても優しい夫が、突然、人が変わったように

現在、結婚してまだ3年目です。
夫は休職、復職を繰り返しているんですが、休職中にいきなり躁の状態になったんです。大声を出して隣近所に響くぐらいの大声を上げて、私に対してものを投げたり、ドアを蹴ったり、DVじゃないかというようなことが時々あって。
普段はとっても優しい人なのに、人が変わったようになって、どうしたらいいのかも分からなくて。私も結構言い返したり、ヒートアップしたりしました。
そうしているうちに、こちらの気持ちもふさぎ込んできて、一時期は私も精神的に参ってしまってつらかったです。

●突然、「人が変わったように」なった
精神疾患を理解することは難しい。さまざまな行動が精神疾患の症状であることは、この疾患の知識がない人にとって理解するのは難しい。

■今も何をしていいのか分からない。教えてもらいたくて参加

昨年、夫にうつの症状が出ました。
そのときからお医者さんにかかっているんですけれども、私と結婚する前にも発症していて、今回2度目ということらしいのですが、今回病気になったのは、私のせいだと本人が言うんです。
ことばの暴力って言うと大げさかもしれませんが、けんかしたときに、夫から「離婚したい」「子どもを俺が引き取る」とか言われて。
私は、子育てで精いっぱいなんです。
子どもが保育園に通っていて、病気になったときどうするかとか覚えることばかりで、離婚とか、親権とか知らないし、お金のこととかすごく不安になって。夫からいろいろ言われるとこっちがパニックになってしまう。今、何をしていいのか分からないです。
皆さんがなぜ、精神疾患のある夫さんと生活をしているのかも知りたい。
夫には、カウンセリングのようなものが必要なのかなと私は思うのですが、私の意見を聞かないので、まだ何もできていません。
私が何かできることはあるのか。そういう情報も知りたい。

●普段はとても優しい人なのに
双極性障害を患う夫に見られる、活動性の亢進、易怒性、異常な浪費、性的逸脱行為などは、躁状態に起こっていると考えられる。躁状態は周囲にとって大きな問題になることも多い。

●私が何かできることはあるのか
多くの人が、妻としてどうしたらよいのか、何ができるのかということを知りたいのにもかかわらず、「具体的に教えてもらえる機会はあまりない」と話す配偶者は多い。

■逃げ出したい。考えることが後ろ向きばかり。なんとかしたい

夫が統合失調症になって、人には病名も簡単に言えない。
夫は職場も休職になっているんですけれども、そのきっかけがいつも特定の人とのトラブルで。なんとかしようと思っていても、この病気だと修正もきかなくて。
私は今とても疲れていて、この先ずっとこの状況を背負っていくのかなって考えると、なにもかも投げ出したくなることもあります。
考えることが後ろ向きばかりになって、こういう状態のときは、夫から離れたいなという気持ちにもなります。でも主治医の先生からは、年齢を重ねるごとに落ち着いてくるから大丈夫だよとも言われています。
娘がいて、3人暮らしなんですけれども、娘に相当頼っていたりするところもあって、私もちょっと年のせいか体調が悪かったり頭が痛くなったりするんですね。もし急に倒れて私が意識がなくなったり死んじゃったりしたら、これから全部娘に背負わせなければいけないので、私が今できることは、なんとかしておかなきゃと思っています。
私は今、そういう状況です。

●妻に生じる精神的負担
精神疾患を患う人と暮らすと家族は、さまざまな影響を受け、中でも精神的な負担は大きい。家族会の全国調査では、家族の37.9%がこれまでに精神的不調に対する処方薬を服用したことがあると回答している。→P185参照

■夫がうつ病になったとき、息子がまだ、6カ月で…

私が1番つらいなぁと感じたことは、夫がうつの状態のなかで、子育てをしなければならないことでした。子どもはまだ生後半年で赤ちゃんでしたから。
夫がうつになったら、毎日、家にいることになって、産後ということもあったので、私が子育てしていて、一緒というのが最初はすごく息苦しくて。夫も落ち込んでいるし、一日中寝ているし。

■発症して17年。夫と本音で話せないつらさ

最も困ったことって何だろうって思ったんですけれども、この17年位の間に、悩みとかも変わってきていて、今の時点で何だろうと思ったときに、それは「本音で話せないこと」です。
夫はすごくいい人で、もともと優しい人なんですが、穏やかであっても、いつ病状の波とともに、こっちに向かって来られるのかなあって思うと、いつも気を遣っています。
なるべく平穏に暮らしたいので、夫と本音ではしゃべれないんですね。
それがつらい。

●育児と家事に追われ、休む暇がないのに、夫は寝ている、本音で話せない
夫に休養が必要になり、休職するようになると、家に一日中夫がいることになる。夫も働きたくても働けないので、自分を責めていたり、家族に申し訳なく思っていたりするのだが、関係はぎくしゃくしていく。また、病気のため本音で語り合えないこともつらさの1つ。

■相談先がなく、10年間、夫の病気を1人で抱え込んできた

私が1番困ったのは、「家族の相談先」がなかったということでした。
病院では家族の話は聞いてもらえないし、夫の受診に同行したくても、同行には本人の同意がいるので、夫は嫌と言う。だから行けませんでした。
薬のコントロールをしたくても、夫だけが受診すると、眠れないとか食欲がないとか、そういうこと位にとどまってしまうんですね。そうではなくて、家ではずっと寝ているか、起きているときは、ずっとパソコンに向かいっぱなしで、ゲームやってたり、音楽聴いてたりと、生活リズムが崩れている。そういうことが本当にいいのかどうかという、具体的にそういうことを話したいのに。
配偶者の相談先を探し続けて、「精神に障害がある人の配偶者・パートナーの支援を考える会」に出会うまでに10年かかりました。
それまで夫の病気を1人で抱え込んでいたので、それがとてもつらかったです。

●相談できずに夫の病気を1人で抱え込むつらさ
治療には、薬物治療以外に休養、心理社会的リハビリテーションなどがあり、休めてリラックスできる環境も大切なので、家にいるとやはり家族の対応は重要になってくる。しかし病気の当事者の相談先はあるが、「配偶者としての相談先がない」とする妻は多い。

●心病む夫に家族としてどのように対応したらいいのか分からない
保健所や医療機関では、家族が病気の知識や対応方法を学ぶために家族教室を開催しているところもある。全国にある精神障害者家族会でも講演会の開催や、家族どうしで学び合う「家族による家族学習会」というプログラムもある。→現状の支援やサービス(本書P201)

蔭山正子

大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻公衆衛生看護学教室/准教授/保健師。
大阪大学医療技術短期大学部看護学科、大阪府立公衆衛生専門学校を卒業。病院看護師を経験した後、東京大学医学部健康科学・看護学科3年次編入学。同大学大学院地域看護学分野で修士課程と博士課程を修了。
保健所精神保健担当(児童相談所兼務あり)・保健センターで保健師としての勤務、東京大学大学院地域看護学分野助教などを経て現職。
主な研究テーマは、精神障がい者の家族支援・育児支援、保健師の支援技術
静かなる変革者たち」「心病む夫と生きていく方法」(共にペンコム)