連載2:心病む夫と生きていく方法

精神に障害がある人の配偶者・パートナーの支援を考える会(配偶者の会)

  • 2021.01.25
あなたはひとりじゃない。
ある日、明るく優しい夫が心の病を患った。不安で押しつぶされそうになる妻。妻がどのような困難にぶつかり、どう乗り越えてきたのか、一緒に考えていきます。
自粛生活が続き、多くの人が不安な日々を過ごすなか、2020年11月2日に発刊された蔭山正子氏の書籍心病む夫と生きていく方法 統合失調症、双極性障害、うつ病… 9人の妻が語りつくした結婚、子育て、仕事、つらさ、そして未来(出版:ペンコム)を連載します。
「あなたはひとりじゃない」。このメッセージが届きますよう。
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「配偶者・パートナーの集い」「子どもたちの集い」「結婚・育児について語る当事者会」の3つの集いを柱に、家族全員を〝まるごと〟支援(前田 直)

■「配偶者」ならではの困難さを「集い」で聞き、支援の方法を考え実践

精神に障害がある人の配偶者・パートナーの支援を考える会(以下、配偶者の会)は、精神疾患を抱える当事者と生活をともにする配偶者や、恋愛関係にある人に焦点を当て、生活上の困難さを聞き、支援の方法を考え、実践している団体です。

本書に登場する皆さんは、配偶者の会が実施している「集い」に参加しているメンバーです。集いには、おつきあいを始めたばかりの10歳代後半や20歳代の若者から、50歳代、60歳代の方など幅広い年代の方々が参加します。

精神疾患を抱えた当事者の病名(障がい名)も、統合失調症や双極性障害、うつ病、発達障害、パーソナリティ障害などさまざまです。男女比は男性が4割、女性が6割ぐらいです。

集いでは幻覚や妄想、躁状態やうつ状態など病気の症状への対処方法や、仕事復帰に向けた経験の共有、子育てについての情報交換、利用可能な社会資源の情報など、さまざまな内容が話し合われます。

メンバーひとりひとりが置かれた状況には違いがありますが、直面する困難には共通することも多く、話し合いの時間はあっという間に過ぎ去っていきます。

配偶者の会には、「家族会に初めて参加する」という方が多く訪れます。

人前で自分の体験を話すことはとても緊張しますが、リピーターの参加者が積極的に発言して場を温め、話しやすい雰囲気を作ってくれます。本名を言う必要はなく、ニックネームで参加することもできます。また、集いで話した内容の秘密は守られています。

配偶者支援の取り組みで1番規模が大きいのは、2016年より主に東京で活動をしている配偶者の会であり、東京の集いに参加した函館在住の方が、函館で分会を始めるなど少しずつ活動の場を拡大しています。京都精神保健福祉推進家族会連合会(きょうかれん)は2016年1月から「配偶者の集い」を開催しており、精神保健福祉士を初めとした支援者が同席くださり、相談できることが特徴です。大阪府精神障害者家族会連合会(だいかれん)でも、2018年1月から「精神に障害を持つ人の配偶者・パートナーの集い」が始まりました。福岡では2017年に福岡県精神保健福祉会連合会(ふくせいれん)の後援を受けて福岡こどもとパートナーの会(こどもぴあ福岡)が設立され、2018年3月に初めて「パートナーの交流会」が開催されました。このように、配偶者支援の輪は、広がってきています。

■「同じ立場の人とつながりたい」─ 配偶者の会が設立されるまで

配偶者の会は、設立メンバーである1人の配偶者の「同じ立場の人とつながりたい」という思いから始まりました。

精神障がい者の家族が集まる「家族会」は全国におよそ1、150あると言われています。一方で、家族会に参加しているのはほとんどが「当事者の親」の立場の方々です。家族会の全国組織であるみんなねっとの調査によると、配偶者の立場は全体の4・2%程度に過ぎません。配偶者の方が地域や病院で開催されている家族会に参加しても、同じ立場の人に出会うことはとても難しいのです。

私はリハビリテーションに携わる専門職である作業療法士として、家族が抱えている思いに関心を持ち、これまでさまざまな家族会に参加させていただきました。そうした活動を続けていた2015年の冬、東京都内で「子どもの立場の家族会」が発足するという話を耳にして足を運びました。

当時は親以外の立場の家族が集まるということが、とても珍しいことでした。子どもの会を発足させたのは20歳代の若い3人の女性でした。専門家の後ろ盾などは何もありませんでしたが、「同じ立場の人で集まりたい。今、困っている子どもたちの力になりたい」という強い意志を持って活動されていました。

この子どもの会はその後、発展的に解消し散会しましたが、メンバーの1人は、東京で生まれ活動の幅を全国に広げている「精神疾患の親をもつ子どもの会(こどもぴあ)」の中心的存在として、現在も活躍されています。後述する配偶者の会で実施している未成年の子どもたちへの支援にも参加してくれました。

家族会を調べる中で、兄弟姉妹の活動も全国で行われていることを知りました。

■家族の中で唯一当事者との「血のつながり」がない配偶者

しかし家族の中で配偶者だけが、同じ立場で集まることができていなかったことが分かりました。

親や子ども、兄弟姉妹と違い、配偶者は家族の中で唯一当事者との「血のつながり」がありません。親を中心とした家族会に参加されていたある配偶者の方は、家族会員からの「いざとなったら別れられるからいいわよね」という何気ないことばにひどく傷ついておられました。家族会員も悪気があっての発言ではありません。当事者のお子さんとの生活に疲弊し、親子であるがゆえに離れることができないというつらさから、ついこぼれ落ちてしまったことばです。

当事者を思う気持ちは変わらないのに、立場が少し違っているために傷ついてしまう人が出てしまうことは、家族会活動の本意ではありません。家族会の中で数が少ないがゆえにこれまで〝忘れられた存在〟であった配偶者に、独立した支援が必要であると考えるようになりました。

このような経緯から、配偶者・パートナーが安心して同じ立場の人と話せる場を作ろうと2016年6月に配偶者の会を設立し、ホームページを立ち上げました。するとすぐに本書の著者である蔭山正子先生を初めとする支援者の方々から、協力の申し出をいただきました。

同年9月には初めての「集い」を開催することができました。ホームページで告知をするとともに、家族会に参加させていただくなかで知り合った配偶者の立場の方々にお声がけし、初回は13名の方にお集まりいただきました。

以後はおおよそ2カ月に一度の頻度で継続しており、参加者も少しずつ増えてきています。

■小さなお子さんを連れて参加しても大丈夫!

配偶者の会は、お子さんを連れて参加することができます。

病院で行われる家族教室で、「小さなお子さんはどこかへ預けてから来てください」などと言われ困ってしまった経験をもつ配偶者の方がいました。核家族化が進んだ現在、祖父母など親族の手を気軽に借りることができず、かといって当事者に小さな子を見てもらうこともできず、短時間の保育サービスも予約が埋まっていたり費用の問題が発生したりと、預け先を見つけることは容易ではありません。

配偶者の会では保育ボランティアを用意して、子ども連れでも気軽に参加できるように準備しています。保育ボランティア利用の第1号は、当時5歳のわが家の娘でした。初回利用時こそ比較的おとなしくしていたものの、2回目、3回目となると会場の雰囲気にも慣れ、力いっぱい遊ぶようになりました。おとなたちが真剣な話をしている傍らで、大声を出しながら走り回ります。

配偶者の会には、1歳にも満たないようなお子さんと一緒に参加される方もいます。お子さんが急に泣き出してしまうようなこともありますが、会の進行には全く問題ありません。最も〝うるさい〟のは、わが家の娘だからです。

集いに参加される皆さまには毎回お願いしていることがあります。

それは「子どもの声に負けないように、おとなは大きな声で話すこと」です。

■おとなになった〝先輩たち〟が、未成年の子どもたちへの支援も

配偶者と一緒に小学校高学年から中学生、高校生の子どもたちが来場するようになりました。当初は保育ボランティアに参加し、小さな子どもたちの面倒を見てくれたりしていましたが、彼らも「同じ境遇の子どもどうしで話をしてみたい」という希望を持っていることが分かりました。そこで、埼玉県立大学の横山恵子先生(看護師)、本書の著者の蔭山正子先生、精神疾患の親をもつ子どもの会(こどもぴあ)の皆さまのご協力を仰ぎ、「子どもたちの集い」を開催することにしました。

子どもたちは自分たちのつらい状況について、せきを切ったように話し出します。

かつて同じような経験をしたことがあるこどもぴあのメンバーは、そうした思いに共感し、しっかりと受け止めてくれます。

また、将来の希望についても話してくれます。おとなになった「子どもの立場」の方々は、今まさに困難に直面している未成年の子どもたちにとってのロールモデルになっています。

2020年春、集いに参加したことがある「子どもの立場」の方がご結婚されたという報告をいただきました。困難に直面することも多い子どもたちですが、しっかりとした支援を受けることで健やかに成長しています。

■結婚・育児について語る当事者会も開催

配偶者の会の活動には、精神疾患を抱える当事者の方からも関心を寄せていただいています。

当事者どうしのピア・サポートグループは近年増加傾向にありますが、その多くは病気の症状への対処方法や、就労についてなどが取り上げられる話題の中心となっているようです。結婚や育児について語れる場は、多くはありません。

そこで配偶者の会では、「結婚・育児について語る当事者会」を開催しています。

単独で参加する当事者の方もいれば、ご夫婦でお子さんを連れてお越しになり、「配偶者・パートナーの集い」「当事者会」「保育ボランティア」と〝家族まるごと〟参加いただく方もいらっしゃいます。

■コロナ禍のもとでの配偶者支援 ─ リモートで遠隔地からの参加も可能に

配偶者の会では「配偶者・パートナーの集い」「子どもたちの集い」「結婚・育児について語る当事者会」の3つの集いを柱に、家族全員を〝まるごと〟支援できるように活動してきました。

しかし2020年春先からの新型コロナウイルス感染拡大の影響で、同年3月から本原稿を執筆している8月現在まで、3つの集いは休止せざるを得ず、また再開のめどもたっていません。このような状況ですが、新しい試みも始めました。それはウェブ会議システムを活用したリモートでの集いの開催です。対面と異なり、参加者おひとりおひとりの表情を見ながら発言いただくタイミングを計ることが難しいなどのデメリットはありますが、一方で大人数が集まる対面式の集いよりも、参加者が率直に発言しやすくなるなどのメリットもありました。また、遠隔地からの参加が可能になることもリモートの大きな利点です。これまで参加することが難しかった北海道や九州などにお住まいの方々とつながることができるようになりました。

■家族による家族学習会「配偶者版」テキストも完成

配偶者支援の取り組みは、これまで明確なエビデンス(根拠)が確立されることなく経験知に基づいて行われてきました。

わが国では精神障がい者家族に対する体系的な支援として「家族による家族学習会」という家族ピア教育プログラムが開発され、普及しています。

家族による家族学習会では「家族心理教育用のテキスト」を用いますが、家族会員の多くが親の立場であることから、配偶者はテキストに基づいた体験の共有がしにくいという問題がありました。

そこで東京福祉大学の谷口恵子先生(精神保健福祉士)、跡見学園女子大学の酒井佳永先生(臨床心理士)など専門家の方々に家族による家族学習会「配偶者版テキスト」の作成に携わっていただき、2019年の秋に完成させることができました。

今後はプログラムの運営・進行を務める担当者を養成し、「配偶者版テキスト」を用いた家族による家族学習会の開催へつなげていく予定です。そしてそれらはウェブ会議システムを用いたリモートで実践していくことを考えています。

読者の皆さまが本書を手に取っていただいた時点で、配偶者の会でどのような活動ができているのか、私には予測ができていません。対面形式の集いが再開できているのか、リモートの集いを継続しているのか、全く違う観点からの活動をしているのか分かりませんが、配偶者を中心に子どもたちや当事者も含めた「家族をまるごと」支援していこうという理念が変わることはありません。

配偶者の会の活動にご興味をもっていただけた方は、ぜひホームページにアクセスしてみてください。

精神に障害がある人の配偶者・パートナーの支援を考える会ホームページ
https://seishinpartner.amebaownd.com/
問い合わせ先:
tokyo_partner@yahoo.co.jp

蔭山正子

大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻公衆衛生看護学教室/准教授/保健師。 大阪大学医療技術短期大学部看護学科、大阪府立公衆衛生専門学校を卒業。病院看護師を経験した後、東京大学医学部健康科学・看護学科3年次編入学。同大学大学院地域看護学分野で修士課程と博士課程を修了。 保健所精神保健担当(児童相談所兼務あり)・保健センターで保健師としての勤務、東京大学大学院地域看護学分野助教などを経て現職。 主な研究テーマは、精神障がい者の家族支援・育児支援、保健師の支援技術 「静かなる変革者たち」「心病む夫と生きていく方法」(共にペンコム)